広く浅くで大惨事

ジャニーズとお笑いと特撮とプロレスの4ジャンルを兼任していたらこんなことになりました

まがいものの夢を見た ニッポンの社長単独ライブ「ロキソニカ」

去年から急激にニッポンの社長に入れ込んでいるのだが、私が好きになってから初めて単独ライブ、しかも3都市での全国ツアーが開催されるということで、漫才劇場での千秋楽公演を観てきた。1時間5,000円という強気の価格設定に仰天したけれど、あのチケットの死闘を潜り抜けて生で観ることできたのは、奇跡でしかないと思う。

公演チラシ

ニッポンの社長単独ライブ「ロキソニカ」(5/28 18:00)online-ticket.yoshimoto.co.jp

ロキソニカという公演タイトルが出たとたん、ファンの間では「ロキソニンをもじっているのか?」という推測が広がっていた。あの2人なら、さらにひねったことを仕掛けてくるのではと思いつつ、蓋を開けてみれば私たちの目の前に広がっていたのは、安直な推測をはるかに超える、まがいものの夢の数々だった。

ニッポンの社長をはじめとする最近のコント師を形容するとき、私たちはつい「斬新な発想」という表現を使いたくなってしまう。でも2人のネタをよく観察してみると、この言葉をニッポンの社長に当てはめる時に、他の人たちと意味合いを少々変える必要があることに気づく。今回の単独ライブの特徴は、どのネタにもオマージュが散りばめられていることなのだが、普段からネタ作成担当の辻さんの趣味嗜好を知っている者であれば元ネタにはだいたいあたりがつくし、把握していない人であったとしても、エンタメが好きであればピンとくるものが多い。
しかし、これほどわかりやすい着想をしているのに、そこからどうしてあのような奇想天外なネタが作れるのかが、どれだけ考えてもまったくわからないのだ。0から1の段階は理解できるのに、1から100に展開されると途端に混沌の渦に放り出される。とにかくニッポンの社長のネタはアイデアの飛ばし方と、その飛距離が段違いだ。
私がいまニッポンの社長に熱をあげているのは、ブログのタイトルの通り、自身が広く浅く様々なジャンルを摂取していて、それでいて裏切られたいという破滅願望を強く持ち合わせているからではないかと思う。

辻さんの発想もおかしいが、それを実現できるケツさんも、やっぱりおかしいと思う。最近辻さんは、自分が何度も演技指導をしてやっとあの完成度に繋がっていることを理由に、ケツさんの演技力をほめる周囲の風潮に疑問を呈していたけれど、そもそもチューニングしさえすれば辻さんの脳内を再現できているということ自体が異常だ。特に「やっぱええわ」「最強の力」の2本は、ケツさんの表情ありきで作られていて、文字に書き起こしてみると特段変なことは言っていないのに、そのふるまいで一つでドカンと爆笑を産み出しているところが、本当に不思議なバランスで成り立つ、最高のコンビだなと思った。
また、昨年のKOCで披露したバッティングセンターのネタでもそうであったが、今回のネタは音響さんや照明さんとの緻密な連携を要求するものが多い印象を受けた。辻さんが数週間前のRadiotalkで、漫才劇場の裏方陣には優秀な人が多いと話していたり、今回の全国ツアーにわざわざNGKの舞台監督である前田さんを同行させたりしていたりしていたことが線で繋がった。
ちなみに前田さんのnoteに書かれていたあとがきを読むと、この公演に関わった人すべてがいとおしくなるので、ぜひ配信を見終わったあとに目を通してほしい。

note.com

照明さんと音響さんの動きを確認したくて、アーカイブで見返したら、カメラワークまで面白く、生で見るよりも配信で見た方が面白いのではないかとすら思ってしまうネタまであった。ある種のナマモノの極みみたいなお笑いというジャンルで、配信の方が面白くなることがあるなんて、漫才劇場には天才しかいないのか?

どのネタも1時間ずつ語れるくらい魅力たっぷりで、もう大好きでたまらない。OPVの電気グループには脳がビリビリしたし、幕間のVには5up好きだった自分には嬉しいゲストで、普段から素人配信を見ている人にはニヤリとする瞬間もある。腹を抱えたのは「やっぱええわ」で、性癖にぶっ刺さったのは「夢」だけど、何と言っても特筆すべきは表題のコント「ロキソニカ」だろう。
着想元と思わしきエピソードについては、なんとなく思い浮かぶが、それは他のネタと違って確証が薄いものが数個ある感じだ。でもその小さなエピソードを繋ぎ合わせ、単独ライブならではのコントに仕上げていて、私はなぜか笑いながら少し泣きそうになっていた。なおかつニッ社ワールドもドカドカ放り込んでおり、ファンなら感じたことがあるはずの「客に信頼を置きすぎでは」と心配になる瞬間もあった。まあ、みんな「最高」と拍手喝采だったので、心配は無用なのだが。個人的にはあれをコンパクトにしてKOCのネタにしてほしいと思うほどなのだが、単独の良さが失われる恐れもあり、難しいかもしれない。
でも、そんなことはわかっていても、私はまたあのロキソニカの世界の2人に会いたくてたまらないのだ。

最後に、これはたまたまだと思うのだが、大阪公演ではネタの合間に拍手が起きなかった。おそらくそれは、ネタの終わりが少し曖昧で、Vが始まっても場面が転換したのか次のコントが始まったのか判断に迷う場面があったからかもしれない(私のお笑い偏差値が鈍っている可能性も大)。私はこれにすごく戸惑ったし、良いことととらえて良いのかもわからないのだけど、図らずしも合間に拍手がなかったことで、1時間の単独ライブが1つの不思議な夢のように思えてしまった。どこにも本物はなくてオマージュしかないので、あれが夢であるかすらわからないのだけど、ニッ社の「現実で起こりそうでギリギリ起こらないこと」というコンセプトを、偶然にも体現していたように感じる。

単独は1週間の見逃し配信期間中なので、ぜひとも配信を買って見てほしい。だからまた配信のリンクを貼ることにする。オマージュの元ネタを探したり、ケツさんの動きを確認したりするために、何周もループしたくなること請け負いだ。そしてできれば、一緒にこのロキソニカの世界をまだまだ愛せれば、このうえなく幸せである。

 

ニッポンの社長単独ライブ「ロキソニカ」(5/28 18:00)online-ticket.yoshimoto.co.jp