Le Fils息子 岡本圭人との3年ぶりの再会
自担である岡本圭人が留学し、帰ってきたかと思えばHey!Say!JUMPを脱退し、サヨナラコンはオンラインでの開催だったので、ようやく初主演舞台で3年ぶりの再会を果たせると思っていた。
ところが、そこにいたのはニコラという17歳の少年だった。
3年前の私へ、こんな写真が撮れる未来が来たよ!!!!!!
— 七那(Nana) (@n7yade) 2021年10月17日
あとお馴染みの方も初めてお知り合いになった方も含め、圭人担で集まれる日が来て本当に嬉しかった!!!! pic.twitter.com/DoRK5kVxba
情報が解禁されたとき、担当に3年ぶりに直接会えるとわかって本当に安堵した。
だけど3秒後に「離婚で引き裂かれた息子が、父親と後妻とその間の子供が暮らす家に引っ越す話」「父親役が健一さん」だとわかって、「推しに持ってくる作品がピンポイントすぎんだろ!」とつっこんでしまった。あまりにも岡本圭人という人が歩んでいた人生との共通点が多すぎたからだ。
事前のインタビューでの圭人りんや健一さんの発言から、役と中の人である岡本親子の存在がないまぜになるものと予想していた。けれど、実際に兵庫公演の初日を観劇したとき、目の前にいるのが推しとその父君だなんてことは一瞬で忘れていて、ニコラとその家族の物語に没頭し、数秒に一回は泣いていた。マスクの中が鼻水まみれになるほどだ。
岡本圭人は、頭から足の先っぽまでニコラだった。この作品は、いわば欝の息子(もしかしたら発達障害あるいはスペクトラムも混じっているのか?とも思った)とその家族の話で、ニコラの喜怒哀楽や希死念慮の境目は、まだら模様のように非常に解りづらい。それを目と眉の距離や、瞳に入る光の量までもを調整することによって的確に表現していて、とても恐ろしかった。ニコラは最終的には自死を選んでしまうのだけど、感情移入しすぎてニコラという青年が死んでしまうことが本気で辛かった。
Le Fils息子という作品のすごいところは、登場人物全員に共感できるところだと思う。実は私も去年まで「人生が重すぎる」「生きることに向いていない」と考えていた人間だったので、序盤は当然のようにニコラに目線を合わせていたのだけど、次第に登場人物全員の思いに胸を引き裂かれ、最終的には自分でもびっくりしたのだが、サーシャの事を一番に考えていた。サーシャというのは、父親のピエールと後妻のソフィアの間にできた赤ん坊で、舞台上では人形で表現されている。人形のサーシャを案じてしまったのは、作品をただ辛くて重たいだけの話にさせずに「家族に問題が起きると、周りはその家族に心の大半を占められてしまい、他の家族がおざなりにされてしまう」ことを丁寧に描写していたからだろう。きっとこれから、サーシャは死んだニコラには勝てないのだろうなと憂鬱になってしまった。
私は兵庫公演の3回(木曜日、土曜日、日曜日)を観劇できたのだが、2回目以降は己がニコラを救いたいのに救えないタイムリープものの主人公に思えてしまい、観劇した日の夜は寝床でうなされていた。岡本圭人が雑誌で繰り返しニコラを救いたいと述べ、パンフレットで自分自身をニコラの未来と例えていたのはこういうことだろう。ちなみに私が「テニミュを観る立海のファンか、三日月宗近になった気分」と呟いていたら、私の感想を見ていないはずの同担が「虚淵が書いた家族ドラマかと思った」と評していた。たまたま自分の精神状態が良好だったから良かったけれど、それでもニコラに引っ張られるところだった。
演技も脚本も、日本にいる自分にも起きうる話だと思わせる説得力がすさまじかったのだけど、フランスの話だなーと思ってしまうところもあって、それはニコラの問題がメンタルヘルスにきちんと連携されることだった(2回目はフランス語関係の仕事をしている友人と見たので、日照時間が短いから赤ちゃんに貪欲に日光を浴びさせようとするところとか、台所のシンクが極小だとか、すぐバカンスでアフリカに行くとか、細かいフランスあるあるを探せてそれはそれで面白かった)。ニコラが自殺を試みたのだから当然なのかもしれないけれど、10代の健康問題が精神科に連携される仕組みが確立しているだなんて幸せだなと斜に構えた自分が悲しかった。あとでパンフレットを読んだら、本職の精神科医の解説まで載っていて、製作陣の配慮に舌を巻いた。
大千秋楽も結末がわかっているのに体感は数秒で、ラストシーンは文字通り心臓が痛くなった。
舞台が終わって観客がキャストを引っ張り出そうとカーテンコールを4回やったけど、最後まで主演による挨拶がなかったことにはびっくりした。私は岡本圭人の人となりが好きでファンになったので、俳優になると素の姿を生で見られなくなるという新たな発見にショックを受けた。でもこれが作品の雰囲気を壊さないようにするための製作陣の誠実さなんだろう。
最後に岡本親子が両手でハイタッチをし、抱擁を交わした。私は万雷の拍手に包まれる2人を見てようやく、自担の初主演舞台だったのだと実感を持った。そして、そこからはもうだめだった。
3年前、突然の留学発表があり、留学中はほとんど生存確認ができなかった。私は、私たちは、そんな中でいつか岡本圭人の主演舞台を見られる日が来るのを楽観的に信じるしかなかった。今日、そんな自分が望んでいた世界先に降り立ったのだ。3年前の自分に、大丈夫だったよと言ってあげたい。
とはいえ、終演後に次の現場の発表がある訳でもなく、今後の予定は白紙だ。仕事は、雑誌の連載が1つあるだけ。
次は楽しい作品を見てみたいが、こんなに素晴らしい俳優岡本圭人の門出を見たばかりなのに、そんな望みを口にしてしまうのは野暮である。
私は岡本圭人がこれからも良い作品に出会ってくれることを、祈った。