なぜ関西ではZIPがブツ切りに放送されてす・またんに差し替わるのか
関西に住んでいると、こんな経験をしたことはないだろうか。
関西のファン「今日はZIPに推しが出るぞー!おっ出てきた!」
ブツッ
森アナ「さてこの後は〇〇をお送りしまーす」
関西のファン「推しのパートやらんのかい!!!!す・またん!!!!」
Twitterなどでオタクがさんざん文句を言っているのでもしかすると関西以外の方もご存じかもしれないが、関西ではZIPの合間に「朝生ワイド す・またん!」というローカル番組が放送されている。
メインキャスターの森アナが中央にいるおじさんである。昔は「たかじんのそこまで言って委員会」などで有名な辛坊治郎さんとのゆるゆるおじさんシンメでお送りしていたが、辛坊さんが卒業した今は東大出身の野村アナがその跡を継いでいる。
ちなみに川田裕美さんはこの番組出身だ。
先に合間と述べた通り、まず5:20からす・またんが始まり、阪神のコーナー(阪神が勝つと森アナが背負っている旗が電動で回転する)をやったり、ZIPの前進番組であるズームインのようなスタイルで野村さんが真面目にニュース解説をしたりする。
それが終わると森アナが「このあとは東京でーす」と間延びした声で言って、ZIPのパートに切り替わる。す・またんが本当にゆるゆるの番組なので、その直後にZIPのキャピキャピ感を目の当たりにするとクラクラする。
そこからしばらくZIPが通常通りに流れてエンタメコーナーに差し掛かったかと思えば、突如ブチッっと画面がす・またんに切り替わり、ローカルタレントが出演するローカルコーナーになるのだ。よくファンが話題にしているのはこの部分である。
ちなみにローカルコーナーの後にす・またんは終了。またZIPに切り替わって、最後のZIP!まで放送される。
この放送形式については何年も前から一部のオタクから苦言が呈されてきた。
最近はSnow Manの阿部ちゃんが出演するキテルネ!のコーナーが放送されないこともあり、以前よりもさらにその声は大きくなっている。
す・またんがずっとその姿勢を貫くことを不思議に思う人も多いだろう。
しかしお笑いとジャニーズの掛け持ちオタである私からすれば、そこには関西ならではの理由があるのだ。せっかくなのでその理由から、関西ローカルという独特の世界を知ってほしいと思う。
大前提として、関西ではZIPの人気が全然ない
もういきなり結論を言ってしまうと、関西ではZIPの人気が全然ないのだ。
上記の記事にはこんなことが書かれている。
読売テレビ系列はこれらの時間帯には、キー局の日本テレビが制作する情報番組「ZIP!」を放送しています。多くの系列局はそのまま受けている(一部を除く)のに対し、読テレは合間を縫って「す・またん」に差し替えています。
本来なら、読テレも他の地方局にならうところなのですが、「ZIP!」が都市部で弱いといった事情もあるようで、日テレと協議を重ねて現在の形になったそうです。実際、「す・またん」の7時台が終了して「ZIP」に切り替わる同25分~8時は視聴率が降下するそうです。
ここに書かれていることがすべてなのだが、ZIPは関西では視聴率が取れない。
取れないから、合間にす・またんというローカルをやっているのだ。
上記の記事に「日テレと協議」と書いてあるので、おそらくZIPが放送されている時間帯は、日テレから要請があった時間帯(必ず放送しないといけない時間帯)と言い換えることが出来ると思う。
関西ローカル局、特に読売テレビならではの強さ
いくらZIPが人気がないとはいえ、他の地方なら日テレに要請されればそのままZIPを放送するだろう。しかし関西、その中でも読売テレビはその力の強さが違う。
同じ関西ローカルのテレビ局と言っても、フジテレビ系の関西テレビやTBS系の毎日放送は独自の朝の番組を持っていない。全国放送のものをそのまま流している。
毎日放送は独自で朝番組をやろうとしてコケてしまったので仕方がないのだが、読売テレビは関東のネット局に対して力の強い関西ローカルの中でも、特に大きくネット局に出れるテレビ局だ。
もう誰も覚えていないと思うが一時期日本テレビは平日夜19時の枠を「サプライズ」という名前で統一していた。「火曜サプライズ」だけ現在も残っているが、昔は他の曜日もあった。
そのなかで「水曜サプライズ」は読売テレビが制作を担当しており、辛坊治郎氏司会の社会派バラエティだった。辛坊治郎氏といえばす・またんの初代司会でもある。
またみんなおなじみの「コナン」も読売テレビのものだ。
他の地方の中でもさらに関東のメイン局に対して強くものが言える放送局がいれば、ZIPの合間に別番組を作っても文句は言えないし、それどころかむしろZIPを助けてほしいと思うかもしれない。
そもそも読売テレビと日本テレビで得意分野が正反対
ZIPの合間にす・またんをやるのはわかった。でもあんなにもブツ切りにする必要はないと思う人も多いと思う。
生放送、おまけにCMを挟まず番組を切り替えるタイミングを綺麗にするのは難しいという事情もあると思うが、それにしてもこの切り替えは本当に唐突だ。マジでナレーションの途中でブチッとなる。
それでは、そもそもなぜZIPが関西では人気がないのかという話をしようと思う。
私の親世代は「ZIPで東京のおすすめスポットを紹介されても一生行かない」「ジャニーズに興味がない」「ZIPはふざけすぎているがす・またんはニュースの解説が手厚い」と言っている。
たしかに関西人は関西人ならではのプライドもとい東京への対抗心があるし、東京に行かなくても都会の魅力は多いに楽しめるので東京へのあこがれはない。
次に「ジャニーズに興味がない」について。これが決定的な特徴なのだが、日本テレビはジャニーズを積極的に取り上げているが、読売テレビはジャニーズが冷遇されがちな関西ローカルのなかでも、一番ジャニーズと距離を置いてきたテレビ局だ。
なぜジャニーズが読売テレビから冷遇されてきたかは関西の芸能史を遡る話になるので割愛するが、簡単に言うと関西ジャニーズJr.が提携している松竹との関係性の度合いが各テレビ局にダイレクトに影響しているからである。
これまで関西ジャニーズJr.が出演してきた番組は大半が関西テレビか毎日放送、NHK大阪放送局のもの。読売テレビで言うと、BAD時代の中間くんが夕方のニュース番組に出ていた時期があるが、あれがイレギュラーすぎただけでそれ以外での出演機会は皆無に等しい(そんな読売テレビが去年の24時間テレビで急になにわ男子を起用したから、放送時に観客が殺到するいうトラブルにつながったのだが)。
読売テレビだって芸能情報は得意としているが、関西でいう芸能とは「芸能ゴシップ」だ。そんなものにジャニーズ本人が出れるわけがない。
おまけに「す・またん」はおちゃらけたおじさんのコテコテローカル番組ではあるものの、ニュースに限っては他の情報番組よりもさらに真面目な解説が聞ける。初代司会の辛坊治郎氏がもともと本家ズームインのニュース解説を担当していたからだ。
辛坊さんの存在は読売テレビそのものにも大きな影響を及ぼしており、読売テレビでは辛坊治郎氏が同じく司会を担当している「たかじんのそこまで言って委員会」が放送されている。この「そこまで言って委員会」は橋下徹氏の政界進出のきっかけであり、その結果大阪府長市長を維新の会の議員が務めるまでになった。
つまり「す・またん」を見ている人はズームインがZIPになる際に切り捨てた要素に魅力を感じているのだ。それで視聴率がしっかり取れている。ちなみに番組オリジナルグッズの売れ行きもかなり良い。(紀伊国屋書店などで取り扱いがあるくらいだ)
加えてこれは憶測だが、阿部ちゃんなどが出ているエンタメのコーナーは、上記の「関西でも必ず放送しないといけない時間帯」に含まれていないのではないだろうか?
おそらくエンタメのコーナーというのは日テレと読売テレビが約束している時間帯が終わったタイミングだ。視聴率が下がるのを止めたいし、生放送でのローカルの時間を少しでも多く確保したい。
しかもこのブツ切りの時間である7:20ごろというのは、もうひとつの関西の朝の情報番組であり、かつて宮根誠司さんをスターにした朝日放送(テレ朝系)の長寿番組「おはよう朝日です」が特集を放送する時間帯なのだ。
だから多少強引でもエンタメのコーナーを切る。それに対して、オタクがどれだけ要望を出しても反映されない。コナンファン以外のオタクは読売テレビのメインターゲットではないからだ。
それでもエンタメのコーナーが見たいあなたへ
正直に言うとかなり望みは薄いが、関西ローカルオタクとして言えるのは「す・またん」がメインターゲットにしている層からの要望を出せば少しは効果があるのではないかということだ。
「す・またん」がメインターゲットとしているのははっきり言って主婦層とサラリーマン、つまりおっちゃんとおばちゃんである。
ジャニヲタなら要望フォームからご意見を送ることをすると思うが、ジャニヲタのメインそうである若年層からの意見は通らない。通勤通学で最後まで番組を見ない若者よりも最後まで見てくれる主婦を大切にする。だからお便りを送る4,50代の方がいれば、普段よりもさらに自分がす・またんのターゲット層であることを強調してほしい。
またZIPはやらないと思うが、もしかすると万博の影響でなにわ男子は起用するかもしれない。万博によって関西ジャニーズと関西ローカルの関係性は大きく変わりつつある。
関西芸能界の文脈を知ると関西のローカル局やジャニーズの見え方がものすぐクリアなって面白いし、運営の意図が読めるので変なオタク疲れを起こさなくなる。願わくばこの記事が、その入門編となってくれれば幸いである。